未完成の美
|
見つめたカメオ。いつものカメオ屋さんじゃない初めて会うイタリア人男性…
『これが欲しいんですけどおいくらですか?』と私が聞くと『これは売り物じゃないよ』
と、不思議そうな表情で答える彼、私の中ではパリで見つけたお気に入りの
マリーローランサンの詩集の表紙が思い出され、いつになく大きな白いカメオが
ブローチになってコートに身に着けられたイメージが頭に思い浮かんでいました。
なぜ彼が不思議そうな顔をしていたかというと、このカメオはカメオを彫っていく過程を
見せるデモンストレーション用の一つで、カメオが彫りあがる途中を見せるための一枚
だったからです。説明されてそのケースの全体像をようやく把握した私、でもこの柄の
この段階、この状態の『未完成の美』に見惚れてしまったので、それを一生懸命
説明すると、『あなたはアーティストなんだね、じゃあこれは譲りましょう』と、
ウインクしながら私の手に乗せてくれた彼…この“出逢い”のトキメキと
いつまでも眺めていたくなる古い素描画のような懐かしさを覚えるこのカメオを
長い間アトリエのテーブルに置いて魅力に触れながら日々を過ごしていました。
きっとこのカメオが最後まで彫られ完成された姿を見ても素通りして存在にすら
気付かなかったことでしょう…出逢いって不思議ですよね。
今はイタリアで金細工職人によりブローチに仕立てられている途中…
出来上がりがとっても楽しみです。トープカラーのコートに着けたらきっと
素敵…♡ なんて想像してしまいます。
ずっと変わらない自分の思い描いている美しいものを追い求めて物創りをしている
私ですが、今年もこんな風に思いがけない発見と閃きから新たな“ルドゥテらしい”
素敵なものたちが生まれていったらいいな…と思いながら今日の記事を書きました。
(SOLD)